手外科とは?
ヒトがヒトとして地球上で圧倒的な地位を確立したのは、大きな脳によるものであり、人間の脳の発達は、2足歩行が上手な原始人類が前足を上肢として使い始めてからといわれています。巧緻性や感覚において、脳とともにこれ以上発達した体の部位は手以外にはありません。複雑である故、一度障害されると失われる機能も大きいものとなります。手外科は整形外科と形成外科の一つの診療分野として位置しており。手外科学会によって認定される手外科専門医制度もあります。扱う疾患としては、手根管症候群、肘部管症候群などの絞扼性末梢神経障害やバネ指やドゥケルバン腱鞘炎に代表される腱鞘炎、橈骨遠位端骨折に代表される骨折、手指の捻挫、靱帯損傷、脱臼などの外傷やHeberden結節、CM関節症、Dupuytren拘縮、ガングリオンなどの腫瘍、変性疾患もあります。これらの代表的な疾患について簡単にご説明いたします。
手根管症候群
手関節の掌側にある手根管には、9本の屈筋腱と正中神経が1本通っています。手根管の背側は固い手根骨であり、掌側にはこれまた固い横手根靱帯が張っていて、これらの10本を束ねています。手の使い過ぎや体のむくみが原因で、9本の屈筋腱が腫れてしまうと、最も弱い正中神経が一番影響を受けて、神経の阻血が生じます。これにより痛みやしびれ、麻痺が発生します。
肘部管症候群
肘内側には尺骨神経を骨に結びつけている靱帯と尺側手根屈筋からなる肘部管という管があり、尺骨神経は外からの侵害から守られています。若いうちは神経を守っていた靱帯や屈筋腱なのですが、年令を重ねるとともに固くなり、神経の圧迫要因になってしまいます。ここでもやはり神経の阻血が生じます。これにより痛みやしびれ、麻痺が発生します。
ばね指
指のMP関節(Metacarpo-Phalangealの略)という指の付け根の関節の掌側には大きな中手骨頭があって、屈筋腱はここで大きく蛇行しながら厚い腱鞘内を走っています。これは指を効率的に曲げる仕組みなのですが、やはり使い過ぎとむくみが原因となって腱鞘炎が起こりやすい部位です。物理的な摩耗と修復の繰り返しで腱と腱鞘がお互いに厚くなっていきます。やがて必要以上に厚くなってしまった腱が腱鞘を通りきらずに、引っかかってしまいます。これが指のバネ様の動きになりばね指と言われているのです。ケナコルトの注射も時限的な効果がありますが、薬剤による腱断裂のRiskも潜んでいるため、小切開による腱鞘切開(湯本法)も当院でも実践しています。
ドゥケルバン腱鞘炎
手関節の親指側には、橈骨茎状突起上に長母指外転筋腱と短母指伸筋腱があって、厚い腱鞘が腱を茎状突起に結び付けてくれています。ここも腱へのストレスがかかりやすい部位であり、腱鞘炎の好発部位です。ここの腱鞘炎はとにかく痛くてたまりません。シンプルな腱鞘切開がお勧めです。
橈骨遠位端骨折
若い方の転倒でもよく折れる部分なのですが、骨粗鬆症による脆弱性骨折のうちでも、比較的若年層が受傷しやすいとされています。昔は上腕からの外固定で保存的加療が一般的であった骨折ですが、橈骨背側骨皮質が損傷されているとギプス内での転位が起きやすく、ガイドラインでは骨折形によって手術も推奨されている骨折です。
指の脱臼や捻挫
Sports外傷に多いものですが、脱臼は整復が基本ですし、捻挫でもひどいものは靱帯縫合が必要になります。固定指位、固定期間も短期間として拘縮予防が大切です。
Heberden結節
指の第一関節(DIP関節)の変形性関節症なのですが、閉経後の女性に多く、原因は使いすぎのみならず、近年女性ホルモンの急激な低下が原因の一つと考えられています。女性ホルモンの補充療法も子宮体癌のRiskを高めるため、大豆イソフラボンの変異体のエクオールが女性ホルモン様の働きをすることが知られていて、エクオールの内服薬が注目されています。当院でも大塚製薬様にお願いして、新しく小さくなって力価の上がった医院限定商品のエクエルプチを置いてもらっています。装具のHeberden ringもお勧めです。
母指CM関節症
母指の付け根の手根骨と指の関節が亜脱臼になって、徐々に変形してしまう病態です。本来の関節の緩みがあったり、使い過ぎたり、昔の外傷などが原因になりますが、Heberden 結節と同時に合併することもおおく、やはり女性に頻発します。治療には装具、サポーター、関節形成術、関節固定術等の方法があります。
Dupuytren拘縮
手掌の腱膜が瘢痕化して短縮し、指の伸展を妨げることになります。原因は不明ですが、発生に人種差があることから、ある程度の遺伝性が関与している可能性があります。コラゲナーゼの注射が使えなくなってしまったので、症状の強い患者様は手術が必要になります。
ガングリオン
関節腔内や腱鞘内には滑液がありますが、滑液が小孔から漏れて戻らないを繰り返すと、これが漏れたところに濃縮されて溜まって比較的固い小腫瘤を作ります。痛みや麻痺を起こすと治療が必要になります。手掌や手背に好発します。
骨粗鬆症
直接手外科とは関係ないのですが、女性なら骨粗鬆症は誰にでも可能性があり、年齢とともに密かに進行します。やはり女性ホルモンの低下、運動不足、栄養不足が骨量減少の原因となり、脆弱性骨折を引き起こして寝たきりになる原因になってしまいます。次に示すのは、受傷当時59歳女性のレントゲンなのですが、たった2段の踏み台から落ちて受傷しました。脛骨と腓骨末端が関節面で大きく折れている右足関節脱臼骨折です。この方の骨密度を測定してみると、YAM値(若年者平均値との割合)で66~70%ほどであり、いつの間にか自覚症状が全くなく、密かに骨密度の低下が進んでいたのです。骨癒合は順調ですが、3か月ほどの不自由な自宅療養生活を強いられました。当院でも骨密度の測定と各種の治療が可能です。長野市の骨粗鬆症検診にも対応しています。ぜひご相談ください。
-
受傷時XP
-
受傷時CT
-
術後2か月
-
骨密度は右大腿骨でYAM値66%、Tスコア- 2.5
手術枠
当院では、ご希望の患者様に手術を計画いたします。月、水、金は午後1件、木曜日は午後3件の枠を準備しています。いずれも入院しない手術枠ですが、これ以外に火曜日には長野市民病院で入院と全身麻酔をお願いすることもあります。